SSブログ

2.シゾイド性格とは何か

 みつ子のパーソナリティーを理解するためのキーワード、それはシゾイド性格(シゾイド・パーソナリティー)である。精神分析家ガントリップは「引きこもりパーソナリティー」とも呼んでいる。

 彼女の幼少時の「エピソードの少なさ」そのことがすでにシゾイド性格の大きな特徴である。精神医学者中井久夫は、シゾイド性格者の幼少時代の特徴として、「手のかからないおとなしい子供で、エピソードに乏しい」ということをあげている。しかし、なぜおとなしいのかというと、「怖がって萎縮している」のである。子供がいたずらをしたりわがままを言うのは、「多少のことをやっても親は自分を見捨てることはない」という安心感が底にあるからこそ可能になるのだが、シゾイド性格の子供はそのような安心感を欠き、自由闊達にふるまうことができず、親の意向に自分を合わせながらその固いお行儀よさの背後に底深い恐怖心を潜ませていることが多い。シゾイド性格者の最も根本的なものは、恐怖感の強さなのである。

 自分の存在が将来も安定して続いてゆく、という心理的な前提を精神分析家エリクソンは「基本的信頼感」と呼んだ(このような世界に対する暗黙の信頼感があるために、私たちは目が覚めたら自分が芋虫になっているのではないかとか家族が宇宙人と入れ代わっていないか、といちいち心配せずに眠りにつくことができる)。しかし、読者の周囲には、一方では些細なことにも動揺しやすく時にはパニックになってしまう人もいるかと思うと、他方では図太く物に動じず時には少し鈍いぐらいに見える人もいるであろう。安全感の強弱は人によって差があるが、シゾイド性格者は、特に安全感が希薄な人々である。

 ことに、対人関係は予期できぬ小さなアクシデントの連続であると言ってよい。安全感に乏しいシゾイド性格者は、他人の些細な言動にひどく動揺し、深く傷つく。彼らにとって対人関係は緊張のあまりひどく疲れるものなので、彼らは他人から距離をとるようになる。

 ・・・私は、みつ子の実家を訪ねる前に、タクシーから降りた後、小一時間歩いてたどり着いた大井川を思い出していた。
 道中は、思いの外、工場が多いところであった。畑やビニールハウスの隣に大きな敷地があって、起重機の音が低く響いていたり、運送トラックが出入りしたりしていた。

 よじ登るようにして土手の斜面を登った。

 視線のずっと向こうにまで白っぽい川砂利が敷きつめられた河原が続く。ところどころに、枯れた草群れが這い、葉の落ち尽くした樹木が枝をいっぱいに拡げている。その合間にきらりきらりと光る帯が川の流れであろう。対岸にの煙突から煙が小さく昇っている。みつ子もこの場所に立ったのだろうか。

 子供時代のみつ子がその川を一人でじっと眺めているのをイメージしてみたいと思ってここまで来

スポンサードリンク


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。