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10.過去を断ち切りながら生きてゆく

 地元の中学校からたった一人、通学に往復三時間以上かかる掛川東高校へ。そして次はもっと遠く離れた埼玉県川越市の旧埼玉県立衛生短期大学に進学。更に、昭和五十九年には静岡に舞い戻り浜松医科大学付属病院に就職。一つの場所に慣れ親しむのを断ち切るかのように、生活の場の大転換を何度かやっている。

 このようなライフコースの選択は、分裂気質者特有の対人関係の特徴がからんでいる。対人関係の苦手な彼らは、「いつでも関わり合いを持たなければならない関係」を身近に持ちたがらない。家族や会社、地域社会などは、自由に選び変えるというわけにはゆかず、容易にそこから脱することができない関係である。例えば会社で、いったんそこで親密な関係を持ってしまったら、人は会社にゆくたびにその相手に挨拶し、話しかけられれば答えなければならなくなるであろう。人間関係を苦手にする彼らにとっては、気が向かない時、独りで閉じこもっていたい時に他者と交流しなければならない、という関係は極度に消耗させるものだからである。彼らは、自分の身近な世界で親密な関係に巻き込まれることを警戒する。





 みつ子が何度か遠方に転居することで生活の場を大転換しているのは、特定の場所でできた人間関係をすっかり掃き去って、自分の痕跡が残らないようにしているようでもあり、誰とものっぴきならない持続的な関係ができないようにその都度その土地でできた関係を断ち切っているように見える。いわば、彼女は人生を何度かリセットしているのである。

   

 しかし、リセットにはもう一つの理由があったのではないか。私は、彼女が一つの生活圏を立ち去る時、その生活圏で体験したことに対して怒りに近い否定的な感情を抱いており、それを処理するための転地という意味もあったのではないかと思われる。

 みつ子は、一つの学校から次の学校に移る時に、地理的に離れており誰も一緒に進学することがないような選択をしている。その後、同窓会の連絡などがあっても、みつ子は一度も出席していない。それどころか、出欠席のはがきすら一度も出さなかった、という。ぎこちないほどに「そうするべきだと決まっていること」を遵守したみつ子にしては意外の印象を受ける。

 心の中に修羅がいた。みつ子は実は、自分の学校生活と、そういう学校生活を体験した自分に対する嫌悪を感じていたのではないだろうか。



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