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8.不器用な女子高生

 高校時代のみつ子は、「場に合わせて柔軟・臨機応変に対応するということがまるでできない人」であると見られていた。

  ある級友は、「嫌なことを言われてもポンと言い返すことができず、黙り込んでしまう」みつ子の姿を記憶しており、別の級友は「何か言われるとすぐにおろおろしてしまう」みつ子を記憶しており、また別の級友は「何人かの同級生が他愛もないことでみつ子をからかっていたら、みつ子はいきなり泣きだして周囲を当惑させた」ことを記憶している。世情に疎く、共通の話題に乗ることもできず、周囲からはちょっとずれた人、と見られていた。きちんと三つ折りにされた白いソックス。決まりどおりの丈のスカート。一度も反抗的な態度を見せたことはなく、校則を几帳面にきちんと守り、ゴミが落ちていれば必ず拾った。

 「真面目」を通り越して、化石のような堅苦しさを感じさせた。  私たちは生きてゆく上で実にさまざまな状況に対処してゆかなければならない。私たちはどんな状況に対してもそのつどそれに最適の行動を自由自在に選べる、というわけではなく、各自が幾つかスキル(技能)を持っていて、その中からどれかを選んで用いることが多い。

 例えば、見知らぬグループの中に初めて参加した時に、どのようにふるまうか。ある人は、ひたすら隅っこで目立たないようにして様子をうかがい、別の人は、近づきやすそうな人を見つけ、少し雑談を交わした後で、このグループに関する情報を仕入れようとする-このように、それぞれの人は各自の「得意技」を持っている。そして、ある人はこの得意技のレパートリーが広く、場面によって臨機応変に「使い分け」ができる。ある時は、積極的に自己アピールしたり、逆にそのような対人行動が通じない場面だと判断するや下手に出たりする。  みつ子は、このような得意技のレパートリーが極端に少なかった。みつ子は、「如才ない」人間でもなかったし、「世渡り上手」でもなかったし、「小技が効く」人間でもなかった。結局、みつ子は、場面を能動的にさばくことがまるでできず、ただ萎縮しきっていたのだ。それが周囲から見ると、融通の利かない堅苦しさと映ったのである。



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